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英語のthisとthatは指示代名詞として、ある状況において直接物事を指し示すのに用いられる。itについても同様に用いられると、日本語話者には思われがちだが、厳密に言うと異なる。ここではこのことについて説明をする。
指示代名詞の基本的な意味は、「ある状況において何かを指すこと」である。英語にはthisとthat、それにそれらの複数形theseとthoseの4つが基本としてある。このとき、話し手にとって時間的・空間的・心理的に近ければthisを用い、遠ければthatを用いる。
これに対して、日本語には3つの指示代名詞が基本としてある。それは「これ」、「それ」、「あれ」の3つである。英語は2段階であり、日本語は3段階で示すことになる。(日本語の指示代名詞の意味については、「指示代名詞thisとthatについて」を参照。)
英語と比較した場合、「これ」がthisに相当し、「それ」と「あれ」がthatに相当する。
しかし日本語話者は、「それ」と「あれ」について、「あれ」をthatに相当させるが、「それ」をitに相当させる傾向が見られる。厳密に言うと、これは少し異なる。itは指示代名詞ではなく、人称代名詞である。
ここで人称代名詞の基本的意味は、「何らかのことがわかっているときに用いられる」ことである。したがって、指示代名詞のように、ある状況において直接物事を指すこととは、意味が異なる。
(1)
A: This glass is chipped.
(このグラスは欠けていますよ。)
B: I'll replace it right away.
(すぐそれをお取り替えします。)
上で、Aのthisが意味するのは、テーブルの上にあるグラスを、話し手が直接指していることである。それに対して、Bのitが意味するのは、Aのthis glassを受けていることである。このとき、このitは話し手の心中にあるthis glassの代わりに用いているのであって、グラスを直接指しているのとは少し異なる。
したがって、次のようにはあまり用いない。
(2)
A: This glass is chipped.
? B: I'll replace this right away.
上のBのように、再度指示代名詞を用いるのは、改めてそれを指示し直す気持ちが働いている場合と考えられる。
(3)
A: Whose is this coat?
(このコートは誰のですか。)
B: It must be mine.
(それはきっと私のです。)
(4)
A: What is this line for?
(これは何の列ですか。)
B: It / ?This is for your signature.
(あなたのサインをもらうためです。)
(5)
A: Is this a book?
B: Yes, it / ?this is.
(4)のBの答えにおいて、普通はitを用い、再びthisは用いない。この場合、人称代名詞として前のthis lineを受けるitを用いればよく、再びthisを用いて直接それを指す必要がない。
また(5)のBにおいても同様で、普通はitを用い、thisは用いない。
以上のようにthis、thatとitの間には相違がある。ここで基本的な整理をすると、次のようになる。
(6)
1.
thisとthatは指示代名詞として、直接物事を指すのに用いられる。
2.
itは人称代名詞として、前に述べられたこと、またはわかっている何らかのことを指す。現実世界の物事を直接指すためには、用いられない。
参照
指示代名詞thisとthatについて(英語学習の豆知識)
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