7.時制の一致
時制の一致とは、主節の動詞と従属節の動詞の時制を、一致させることをいう。時制を一致させるとは、主節の動詞が過去時制または過去完了形、過去進行形などの現在完了形以外の過去の出来事を表す形式の場合に、従属節の動詞を一段古い時間を示す形態に変えることである。
たとえば現在時制ならば過去時制にし、過去時制ならば過去完了形にするのである。そして現在完了形ならばこれも過去完了形にする。また従属節の動詞がもともと過去完了形の場合は、英語ではそれ以上古い時間を示す形態がないので過去完了形のままである。
以上のようなことが時制の一致ではあるが、時制の一致が生じるのは主節の動詞が過去形式のときだけである。したがって、主節の動詞が現在時制の場合は時制の一致が生じない。また、現在と関わりのある現在完了形や未来表現、未来完了形についても時制の一致は生じないのである。そして、時制の一致とは従属節が名詞節の場合に主に生じるのであるが、ここでは時制の一致についてそれがほぼ必然的に生じる間接話法を用いて述べていく。
7.1. 直接話法と間接話法
動詞のsayやtell、answerなどは話し手が発話する内容を伝える動詞であるが、そこからこれらは伝達動詞と呼ばれている。このような伝達動詞を用いて相手に伝えることを「話法」というが、この話法には主に直接話法と間接話法の2つの種類がある。直接話法とは、話した内容をそのまま伝えることであり、間接話法とは相手が話した内容を「話し手の立場」から伝えることである。
(1)
a. He said, “ I'm very happy to see you.”
b. He said that he was very happy to see me.
上の2例において、(1a)が直接話法で、(1b)が間接話法である。
(1a)で、「,」(コンマ)の後の「”」(引用符)で囲んだ部分は、「彼」が話したことについて、話し手がその内容をそのまま伝えている部分である。この部分が、間接話法になるときに時制の一致が生じることになる。
(1a)の従属節の動詞は一段古い形態になるが、そこで、I'mはhe wasというようにamがwasに変化する。
また、このとき間接話法とは「話し手の立場」に立って伝えることであるので、従属節に用いられている人称代名詞もIからheのように適当に変えることになる。こうして表されたのが、(1b)であるが、次は他の例である。
(2)
a. She said, “ It is time to go.”
b. She said that it was time to go.
上の例において、間接話法にした(2b)では主節の動詞sayの過去時制に一致させるために、現在時制であったisを一段古い過去時制のwasに変えている。
(3)
a. She said, “ I'll leave for Tokyo tomorrow.”
b. She said that she'd leave for Tokyo the next day.
(3a)の直接話法では未来表現としてwillが用いられているが、これについても一段古いwouldに変わることになる。
また、人称代名詞Iも話し手の立場から発話されるのでsheに変えられる。
さらにtomorrowであるが、これは「翌日」を意味するthe next dayになっている。これは、直接話法で発話された際にはtomorrowがまだ有効であったことが、間接話法で発話された際にはtomorrowと言うことができる当日を過ぎてしまい、もはや有効ではなくなってしまっているからである。
(4)
a. She said, “ I saw him yesterday.”
b. She said that she had seen him the day before.
(5)
a. She said, “ I had an accident yesterday.”
b. She said that she had had an accident the previous day.
上の例の直接話法では、いずれもyesterdayが用いられている。これも間接話法が発話された際はそのyesterdayが言える当日を過ぎているので、「昨日」の代わりとして「前日」の意味を持つthe day beforeやthe previous dayが用いられることになる。
(6)
a. She said, “ I had already seen him.”
b. She said she had already seen him.
上では直接話法にすでに過去完了形が用いられている。英語においては過去完了形よりも古い時間を示す動詞の形態がないので、これ以上変化をすることはない。
したがって、間接話法において時制の一致が生じる場合でも、過去完了形はそのまま表される。ただ、人称代名詞は上の例にもみられるように適当に変えることになる。
ところで、tomorrowやyesterdayなどの副詞が直接話法で用いられている場合、それを間接話法では適当な副詞に変えるのが普通であるが、その間接話法が発話される際に直接話法が表している当日の範囲内ならば、変える必要はない。これは当然tomorrowやyesterdayを言うことができるその当日中に発話することになるからである。
(7)
a. She said, “ I had an accident yesterday.”
b. She said that she had had an accident yesterday.
以上のような時制の一致を時間表示に示すと次のようになる。
(8)
a. She said, “ I'll leave for Tokyo tomorrow.”
b. She said that she'd leave for Tokyo the next day.
上は前例とそれに相当する時間表示を示しているが、(8a)は直接話法の時間表示であり、(8b)はそこから間接話法にした場合の時間表示である。従属節が名詞節であるので、時間表示は上に示されるように2段にするが、上段の時間表示は主節に相当し、下段は従属節に相当している。
また、(8a)の時間表示上では上段の過去時と下段の現在時が点線で結ばれている。このことは上段の出来事時(E)と下段の発話時(S)とを結んでいることを意味しているのだが、それは下段に相当する従属節は主節の出来事時(E)から生じているからである。したがって、下段の発話時(S)が現在時にあるのは従属節では適切であるが、発話された内容は過去の出来事から生じていることを表している。
それに対して、(8b)の時間表示上では上段の現在時と下段の現在時が点線で結ばれているが、これは時制の一致により下段の発話時(S)が上段の発話時(S)を基準として置かれるからである。
また、下段の発話時(S)が示されていないのは、下段に相当する従属節は同一の話し手の立場から発話されるからである。(*36)
*36 |
これを相対的時間関係と絶対的時間関係で述べる。
直接話法の時間表示上で上段の出来事時(E)と下段の発話時(S)が結ばれているのは、例文において引用符で囲まれた従属節が過去からみた時間関係となるからである。したがって、その従属節は過去からみた「相対的な時間関係」を表すことになる。
それに対して、間接話法の時間表示上では、時制の一致から主節も従属節も同一の発話時(S)からみることになる。つまりこの従属節は、現在時からみた「絶対的な時間関係」を表すことになる。
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さて、時制の一致のことであるが、それが生じるのは下段の時間表示上のみである。したがって、(8a)の下段は未来表現の時間表示を示しているが、時制の一致から(8b)の下段では過去時制の時間表示になる。
(9)
a. She said, “ It is time to go.”
b. She said that it was time to go.
上も同様に時制の一致による時間表示を示している。(9a)の下段の時間表示は現在時制を表しているが、それが時制の一致により(9b)の下段において過去時制の時間表示になる。また、上段の出来事時(E)から伸びていた点線も(9b)では上段の発話時(S)が基準になるため、そこから伸びることになる。
(10)
a. She said, “ I saw him yesterday.”
b. She said that she had seen him the day before.
上は時制の一致により、過去時制から過去完了形に変わることを表す時間表示である。
(11)
a. She said, “ I had already seen him.”
b. She said he had already seen him.
上では過去完了形を始めから用いているために、時制の一致が生じても時間表示においては変化をすることがない。しかし、(11a)の上段にある出来事時(E)から伸びていた点線は、(11b)では発話時(S)から伸びることになる。
以上が時制の一致についての時間表示だが、この時間表示から考えた場合、時制の一致が生じるのは上段の時間表示上において、心の位置(M)が現在時から離れて過去の時間帯にあるときである。
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