6.2.5.状態動詞の一時性
状態動詞には進行形を用いないのが普通である。継続を意味として持つ状態動詞は、継続を表そうとする進行形と相容れないからである。
しかし、状態動詞にも進行形を用いることが可能である。それは、状態の一時的な意味を表す場合である。これは時間的枠を設けることから考えることができる。たとえば次の例がある。
(21)
a. I live in Hakodate.
b. I am living in Hakodate.
上の2例は、いずれも日本語では「私は函館に住んでいる。」と訳すことができる。(*30)
(21a)は現在時制を用いた例である。現在を含めて、これから先も長期間に渡って函館に住むことが予想される。
しかし、進行形を用いた(21b)ではそのような意味は生じない。なぜなら、進行形を用いることから設定される時間的枠が生じ、函館に住んでいるという状態が一時的な意味になるからである。したがって、いずれ近いうちに、他の街へ移ることが意味として含まれることになる。
*30 |
日本語では動作継続や状態継続を用いても、いずれもテイル形(過去の出来事にはテイタ形を用いる。)を用いる。
a. I think you are honest.
(私はあなたが正直だと思っている。)
b. I'm thinking out what to do next.
(私は次のことを考えている。)
上の2例ではいずれもthinkを用いているが、同じthinkでも(a)は状態(このときのthinkの意味は「思う」)、(b)は動作(このときのthinkの意味は「考える」)を表している。したがって、(a)には通常進行形を用いることができないが、(b)ではそれが可能である。
しかし、日本語ではそのような区別に関係なく、双方にテイル形を用いることになる。
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(22)
a. You're just hearing things.
(それは空耳だよ。)
b. He is dead drunk and is seeing pink elephants now.
(彼は泥酔していて、今幻覚を見ています。)
(22a)ではhear、(22b)ではseeの進行形が用いられているが、これらは状態動詞の中の知覚動詞であり、進行形にはすることができないのが普通である。しかし、これらの動詞についても、一時的な意味を表すために進行形が用いられる。
しかしながら、それが一時的と感じられない場合は用いることが不可能である。
たとえば大きな建物などは動かしようがなく、固定されていると考えるのが普通である。そのような建物については、進行形を用いることができない。
(23)
a. The building stands over the river.
(そのビルは川を見下ろす所にあります。)
b.*The building is standing over the river.
進行形を用いた(23b)は不自然になる。それは、ビルとは大きな建物であることが普通に考えられるので、一時性を持つ進行形を用いることができないからである。
(24)
a. The old castle stands on the hill.
(古い城が丘の上に建っている。)
b.*The old castle is standing on the hill.
上も同様である。城もビルと同様に一時的にそこに建っているとは普通は考えられないため、(24b)は不自然に感じられる。
当然、それが動かすことのできる物、あるいは何かの状況から動かすことになる物については、進行形を用いることが可能になる。
(25)
a. The bicycle was sitting in the garden.
(自転車が庭にとめられていた。)
b. The bookcase was standing in the room.
(書棚が部屋の中にあった。)
上の2例では自転車や書棚を例として用いているが、いずれも人の手によって移動させることができ、一時的にそこに置かれているという意味を含むことになる。書棚にしても、そのうち移動させられることを意味として含む。
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